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JBL 4660
三次元的な音圧分布を考慮して開発されたシステムがJBL社の4660です。
この特徴的なホーン部分の発明者は、定指向性ホーンの生みの親であるドン キール ジュニア氏です。
テクニカルマニュアルは、こちら(4660)こちら(4660A)

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キール氏の特許というと、定指向性ホーンの原理を確立した米国特許4,701,112号です。
この特許の出願日は1975年9月30日。
その後、EV社からJBL社に移籍し、バイラジアルホーンの米国特許4,308,932号を取得します。
特許出願日は1980年5月6日。
なお、ALTEC社のマンタレイホーンの特許は、1978年12月8日に出願されています。

このような指向性制御技術は、この4660により、さらに次の段階に進むことになります。
以下、キール氏の米国特許4580655号AESで発表した論文の内容をざっとご説明します。
例によって大誤訳&大誤解の可能性がありますが、単なるカタログ男のMR.Sound Only氏に正確な説明なんか到底無理なので笑って許してね。

一般的な定指向性ホーンは周波数帯域により指向性が変動しにくいという特徴を持っていますが、そのホーンの開口部から広がっていく波面(wavefront)の形状は球形です。
このため、1つのスピーカーで客席エリアをカバーしようとすると、スピーカーに近い客席では大音量となる一方、遠い客席では音量が不足する。
そこで、キール氏は客席エリアに均一の音量を提供できる定指向性ホーンを開発することにしたそうです。

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上の斜視図はキール氏のAES論文に掲載されていたものです。
スピーカー(4660のホーン部分である2346+2425J)は、長方形状に分布する客席エリア前方側の天井に取り付けられています。
そこから斜め下方に音を放射します。
床面からスピーカーまでの高さをHとすると、客席エリアの幅は2H、客席エリアの奥行き方向の長さは2.75Hになることが示されています。
普通のスピーカーなら、スピーカー直下の客席ではうるさくなり、遠くの客席では音が小さくて聞き取りにくいということになってしまいます。
4660は、幅2H、奥行き2.75Hの客席エリア内のどこでも同じ音量で聴こえるそうです。


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FIG.2B(図2Bのことです)は横方向から見た説明図であり、客席の前後方向の分布が符号30で示されています。
図2Aは、天井の上空から見下ろした説明図です。

最初に垂直方向の指向性の説明から。
ホーンは角度28の垂直指向性(図2B)を持っており、この角度は客席エリアの前後長30に対応します。
この垂直指向性は図3に示されている2つの対向する壁面40の相対角度22(図3では50°と表示されていますね)により決定されます。
なお、その下流に位置する2つの対向する壁面42(図3)は、図1に示す16、18の部分であり、定指向性ホーン特有の急激に広がる部分です。

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次は水平方向の指向性。
図2Aは、客席エリアの前方と後方では必要とされる水平方向の指向性の角度が異なることを示しています。
客席エリアの前方では、角度32という比較的広いの水平方向の指向性が必要であり、一方、客席エリアの後方では、角度34という比較的狭い水平方向の指向性が必要となります。

図4は、ホーンの水平方向の断面図。
対向しているスロート壁面58によって間隙50が形成されています。
この隙間50の開放口22の側方には左右壁面20があり、開放口22から急激に広がっています。
このため、開放口22から放射される音波は、左右方向へ効率的に分散されます。
なお、間隙50の幅寸法は、そのホーンが用いられる最も短い波長と同等かさらに短い寸法なのだそうです。

図4の右側には、左右側面20が様々な角度で広がっていることが説明されています。
最も広い角度32に対応する左右側面20の広がり方から、最も狭い角度34に対応する左右側面20の広がり方まで、左右側面20の広がり方は連続的に変化します。

図1の側壁59や側壁61の領域については、上述したような左右側壁20の広がり方をしていません。
これは、図3における44と46の間の垂直方向の角度からは外れているためです。
しかし、図3に示す壁面42(図1に示す16、18の部分)は、44と46の間の垂直方向の角度から離れているため、図1に示す側壁59と側壁61に相当する部分に隙間を生じてしまいます。
この図面で示しているホーン10という具体例では、そうした隙間を側壁59と側壁61により封鎖したため、非常に個性的な外観を呈しています。


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上のレスポンスグラフは、0°から70°までの10°毎の垂直方向の音圧レベル(ホーンから等距離における)を示したものです。
(この垂直方向の角度は下の図面に表示されています。)

このグラフからは40°、50°、60°の音圧が高いことが分かります。
このため、スピーカーに近い客席方向への音圧は低く、一方、スピーカーから遠い客席に提供される音圧は高くなります。


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上の(a)から(h)のグラフは、(a)0°、(b)10°、(c)20°、(d)30°、(e)40°、(f)50°、(g)60°、(h)70°の垂直方向の各角度における水平方向の音圧レベルの計測結果です。

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上の斜視図によると、(a)のグラフ(垂直指向性が0°)では90°という広い水平指向性が必要です。
一方、(h)のグラフ(垂直指向性が70°)では37.7°という狭い水平指向性が必要となります。
(a)から(h)へ、順に水平方向の指向性が狭くなっていることが分かります。

という訳で、4660はたった1台で客席エリアのどの位置においても略均一の音量と周波数特性を確保するという恐るべきスピーカーシステムなのです。
キール氏は、スピーカーという技術分野において、ランシング氏に並ぶ天才ではなかろうかと思っています。


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そして、4660のホーン部分がエベレストDD55000の開発のきっかけとなったたのはご存知の通り。
4660のホーンである2346と略同一と思われる2346-1ホーンの性能がどの程度のものか聴いてみたいものです。

このエベレストの素敵な点は、2346ホーンという業務用の当時の最新ホーンを家庭用として流用した点にあります。
自作スピーカーに業務用ユニットを導入するのと同じやり方です。
そして、4660の本来の目的や使い方とは全く異なり、ステレオの有効な音場エリアを拡張するという新しい目的や使い方を示している点が本当に素晴らしい。
こういうシステムが自作派のお手本になるシステムなのです。

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2346ホーンの他の画像はこちらを。

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by kiirojbl | 2009-06-12 16:06 | JBL System
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